インターネットは呪術を封じたのか?

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20060405k0000m040068000c.html
以下本文抜粋。

強要容疑で逮捕されたのは、サトウ容疑者とインドネシア国籍の宇都宮市宿郷1、無職、デイニ・フェブリアニ被告(29)=出入国管理法違反罪で起訴。調べでは、サトウ容疑者は昨年9月と11月ごろ、デイニ容疑者の紹介で現地のブローカーからインドネシア人女性2人を1人180万円で買った疑い。
さらに、うち1人にはつめや毛髪を提供させ「逃げたら、この体の一部を使って黒魔術で呪い殺す」などと脅して売春を強制、女性の売上金全額を巻き上げた疑い。3人はいずれも容疑を認めている。

=呪いのデーボは実在する
という話ではなくて。



これをもって『効く』とするのは牽強付会に過ぎるんだろうけども、実際どうだったのだろうか。上記ソースでは事実関係にあいまいな部分が多く、何とも言えないんでもう一つ探してみた。


http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/news/060405/news_1.html:共犯のタイ人女も逮捕 宇都宮人身売買事件




上記リンク先は遅筆なワシがウダウダしている為に既に404なんですが、そこで明らかにされていた罪状は

  1. 刑法の人身売買(買い受け)
  2. 売春強要

の二つだけ。
しかし文中には

サトウ容疑者らは買い受けた同国籍の女性に売春させた際、逃走すれば現地の呪術(じゅじゅつ)を使うなどと怖がらせていたことが判明。

って事で、売春自体は成立した模様。
「人買い」に売られる→売春させられるまでの、非人道的な流れの中で結果的に逃げる事が叶わなかったのであれば、やっぱり呪術は『効いた』のかも知れない。


では。


本邦ではどうなんだろうか。

似たような事例を引くのは非常に困難なんですが、例えば古い樹木数本の間に注連縄(しめなわ)が巡らされていたとする。そこを敢えて突っ切る人はあまりいないと思う。

これは日本人の中に染みこんだ『注連縄=神聖』という結びつけが、注連縄を突き破る行為に『禁忌』を連想させる為であってこれが欧米諸国の人であれば、恐らくズカズカと立ち入ってしまえるんでしょう。

或いは、男子用の朝顔型便器に蝿の模様を付けたらミスショットが減った、などもこういう事例に組み込めると思う。

広義に捉えれば「間接的に心理的抑圧を惹起せしめて、他者の行動を一部制限する」事を呪い*1と定義出来る。

文明の発達・情報の伝播にインターネットというものはすでに欠かせなくなっているんだけども、瑣末な情報がそれこそ末端にまで行き渡る事により、個々人の知識は多様化する。多様化するがゆえに、一つの【モノ】を見たときに感じる事柄が一義的ではなくなってしまった。そこに『呪い』は介在できない。やはり、呪術はwebによって封印されつつあるのかもしれませんな。



ガダラの豚―Psychic mystery adventure (1) (Action comics)



中島らも氏の著作『ガダラの豚』の内容から引いてみるのだけども、呪術医、という職業が存在する。かいつまんで言えば呪術を媒介してトラブルシューティングを行う人々を指すのだけども、このシステムが面白い。


手元に資料が無いのでうろ覚えで書くのをお許し頂きたいが、A氏〜B氏間に何らかのトラブルが発生した時、Aは呪術医に報酬を持って『Bを呪って欲しい』と依頼する。


この時、呪術医はデタラメではなく正しい作法に則ってB氏を『呪う』。正しい作法によって呪われたB氏は、自宅の玄関に吊された鶏の死骸やら血袋を見て『自分が呪われている』事を知る。


A氏がB氏を『呪い殺したいほど憎んでいる』事は、呪いの形代(かたしろ)を通じてB氏に伝わるワケなんですが、ここ重要。つまり実際にB氏に傷害行為を働く事なく、B氏に対してある一定の打撃を与えられる事に加えて、B氏が反省の意を表したり或いは、私は呪われるような立場に無い。むしろ呪われるべきはA氏だ!などど反駁する事によってトラブルは次のステージへと進む。

これが一概に良い事だとは思わないのだけども、少なくとも一時の感情に流されてB氏を殺めてしまう、という最悪の事態は回避される事になる。

何を言わんとしているか、うすうすお分かり頂けるかと思われますが、『殺してやる!あwせdrtgyふじこ』となる一歩手前に『呪い殺してやる!!!11!!!』がクッションとして存在する事は、非常に有意義な事なんではないか、と思うんですな。


豚の皮で人形作って吊そうが、髪の毛を編み込んだわら人形を五寸釘で打ち抜こうが、実際的な『傷害行為』には当たらない*2。そういった直接的行為を抑止するシステムとしての『呪い』は実は有益なんだと、そんな風に考えますが如何なもんでしょうか。気分は悪いけども。




今宵は此処まで。

*1:まじない、と読んでも可、か。

*2:法解釈上では「脅迫罪」と「傷害罪」認定されるケースもあったりしますが